時の彼方に君がいた
♢♡


朝の公園。


その公園は佐野山という小さな山の中腹にある。


私は土曜日の朝、そこを訪れる。


山を登る、というと大変に聞こえるが


頂上まで舗装された道が続いているような山なので大した運動ではない。


しかし、万年文化部の私の身体は


いつも公園に辿りついた時


少し息を切らしているのだった。


私は上を見上げて目を細めた。


木々の葉の隙間から光が漏れて


きらきらしている。


私は静寂を破らぬよう


ゆっくりとベンチに近づいた。


青い塗装の剥げた、古いベンチだ。


そこに座っている、


すぐ下に広がる街を見つめていたらしい少年は、私の足音に気づいて振り返ると、ふわりと笑った。


『おはよう』


たしかに彼の唇がそう動いたように見えたから、


『おはよう』


私も唇を動かして返事をした。


彼から一人分くらい離れたところに腰をおろし


身体の力を抜いた。


となりを見ると彼の視線は前方に戻っている。


その横顔は、穏やかで、優しげだった。


教室にいる時とは、まるで別人。


私と同じだ。


………まぁ、私の場合は、『まるで』なんていう前置詞は必要ないのだけれど。




< 18 / 34 >

この作品をシェア

pagetop