時の彼方に君がいた
教室にいる時は、窓際の一番前の席で
たった一人の空間をつくっている少年。
さながら水槽の中のくらげ。
さらさらとした黒髪の少年。
土曜日の朝、なぜかいつも
ここにいる少年。
彼の名前は、土野 なぎさ という。
土野 なぎさとこの場所で初めて会ったのは、一年生の初夏のこと。
ちょうど去年の今頃だ。
彼はあの日もこのベンチに座って
街を見下ろしていた。
去年も同じクラスだったから、私はすでに彼を知っていた。
吸い寄せられるように私が近づいても、
彼はまったく気にとめなかった。
まるで、私がはじめからそこにある空気であるかのように、
しばらく何の反応も示さなかった。
しかし、遠慮がちにベンチの隅に座ると、なぎさくんはやっと気づいたような顔をして、私に微笑みかけた。
それが私が初めて見た、なぎさくんの表情らしい表情だった。
「はじめまして、散歩?」
彼の男子にしては少し高めの声に、
私は首をかしげた。
「……私たち、クラスメートだよ」
まさか、私の姿を知らないのだろうか。
入学してからずっと、同じ教室で授業を聞いているはずなのだが。
私の言葉に、今度はなぎさくんがきょとんとした。
「でも……」
なぎさくんの黒い瞳に『私』の姿が映る。
「君に会ったのは初めてだから。」
身体がふるえた。
それは喜びと恐怖が入り混じったような、なんとも言えない感覚だった。
この人には分かるのだろうか。
(まさか)
と否定の声が頭に響く。
誰にも分かるはずはないと。
しかし、私は彼の言葉が忘れられなかった。
次の日の日曜日、同じ時間に来ても彼はいなかった。
また巡ってきた土曜日、彼はそこにいた。
以来、土曜日の朝、私は毎週ここに来る。
ここにいる時のなぎさくんは、教室にいるときのように、まわりにガラスをはっていない。
話すことは滅多にないけれど、私がここに来ることを受け入れてくれているように思う。
彼がここに来る目的は知らないけれど。
彼のそばは居心地が良かった。
……織姫様にでもなったつもりかよ、と少々頭の中の声がうるさかったが。
たった一人の空間をつくっている少年。
さながら水槽の中のくらげ。
さらさらとした黒髪の少年。
土曜日の朝、なぜかいつも
ここにいる少年。
彼の名前は、土野 なぎさ という。
土野 なぎさとこの場所で初めて会ったのは、一年生の初夏のこと。
ちょうど去年の今頃だ。
彼はあの日もこのベンチに座って
街を見下ろしていた。
去年も同じクラスだったから、私はすでに彼を知っていた。
吸い寄せられるように私が近づいても、
彼はまったく気にとめなかった。
まるで、私がはじめからそこにある空気であるかのように、
しばらく何の反応も示さなかった。
しかし、遠慮がちにベンチの隅に座ると、なぎさくんはやっと気づいたような顔をして、私に微笑みかけた。
それが私が初めて見た、なぎさくんの表情らしい表情だった。
「はじめまして、散歩?」
彼の男子にしては少し高めの声に、
私は首をかしげた。
「……私たち、クラスメートだよ」
まさか、私の姿を知らないのだろうか。
入学してからずっと、同じ教室で授業を聞いているはずなのだが。
私の言葉に、今度はなぎさくんがきょとんとした。
「でも……」
なぎさくんの黒い瞳に『私』の姿が映る。
「君に会ったのは初めてだから。」
身体がふるえた。
それは喜びと恐怖が入り混じったような、なんとも言えない感覚だった。
この人には分かるのだろうか。
(まさか)
と否定の声が頭に響く。
誰にも分かるはずはないと。
しかし、私は彼の言葉が忘れられなかった。
次の日の日曜日、同じ時間に来ても彼はいなかった。
また巡ってきた土曜日、彼はそこにいた。
以来、土曜日の朝、私は毎週ここに来る。
ここにいる時のなぎさくんは、教室にいるときのように、まわりにガラスをはっていない。
話すことは滅多にないけれど、私がここに来ることを受け入れてくれているように思う。
彼がここに来る目的は知らないけれど。
彼のそばは居心地が良かった。
……織姫様にでもなったつもりかよ、と少々頭の中の声がうるさかったが。