時の彼方に君がいた
「おはよ、翼。今日は早いんだ」


僕が来ていることに気づいた小雪が


ぴょんと飛びついてきて、僕の頬をつつく。


そして水野を見てなぜか顔を赤らめた。


「おはよ、水野」


「……おはよ」


水野は小雪にひかえめな笑みを向けた。


三秒ほど、沈黙が続いただろうか。


「あ、あのね、実はね」


突然、めずらしく上ずった声をあげる小雪を見上げると、


心底幸せそうな少女の笑みがそこにあった。


小雪が、リップでほんのり色づいた唇を


僕の耳に寄せる。


「わたしと水野、付き合うことになったの」


僕はゆるゆると目を見開いた。


ついで、水野の顔を見下ろすと


彼は俯いていて表情が見えなかった。


「えへへ、朝からいきなりごめんね」


でも、翼には一番に知らせたかったから


そう言ってにっこり笑う


いつもは冷静でしっかり者の小雪。


小雪のストレートヘアが


先日のあの子と重なる。


僕は混乱して、小雪と水野のあいだで視線を彷徨わせた。


さっきまで、彼女かわいい子だね、と水野に話していたはずなのに。


小雪の前で、


『土曜日のあの子は、彼女じゃなかったの?』


とは聞けるわけがなかった。



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