彼がヤンデレになるまで
「ミナナ」
“ミナナ”は、答える。
自身の名を――“この人に呼んでほしい”だなんて。
「ミナナ、ミナナか。可愛いね」
「ひっぱたきたくなること言っていないで、あなたのも教えて下さいよ」
「カルツだよ」
「そうですか。カルツさん」
「呼び捨てでいいよ。俺もそうする」
「“だからこそ”、私は『カルツさん』と呼びます」
冷たい人と目がかち合う。後ろからなら、嫌々抱きしめられたとなるのに、こんな体勢になれば――こちらも抱き締めなければいけなくなるじゃないか。
死人みたいな人を。死人たる自身を救ってくれた人を。
恩の返し方など分からなかったが、自身にも出来ることがあるのかと、ミナナはカルツの頬に触れた。