box of chocolates
 お互い無言で手をつないだまま、ゆっくりと時間が流れた。貴大くんは、私を引っぱってくれるような男性ではないし、女性が喜ぶような台詞を言える器用さもない。けれど、いつでも私を想って、春の日差しのように温かく見守ってくれる。
今も、私が無言ならば私に合わせてくれている。不器用だけれど、私の心に寄り添おうとしている。
「そばにいてね」
「うん」
「貴大くんは、何もしなくていい。私の心がフラフラしないように、しっかり手綱を握っていて」
「わかった」
「あ。何もしなくていいって言ったけれど」
「うん? 何?」
「キスして」
 ごめんね、貴大くん。これからもよろしくね。唇を重ねた瞬間、もう迷わないと決めた。


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