box of chocolates
 翌日、店は定休日だった。貴大くんとランチの約束をしていたから、準備をして家を出た。駐車場に高級外車が止まった。私も、立ち止まった。
「やぁ、杏。これからお出かけ?」
 車から降りた八潮さんが笑顔を見せた。
「はい。お仕事お疲れ様です」
「杏の顔見たら、疲れも吹き飛ぶから」
 鋭い視線を向けられたけれど、もう迷わなかった。八潮さんの視線を受け止めるようにして、真っ直ぐに彼をみつめた。
「八潮さん、お付き合いの件なんですが」
 私が切り出すと、八潮さんは真顔になった。小さく深呼吸してから、頭を下げた。
「ごめんなさい。お断りします」
「杏、顔をあげてよ」
 私が顔をあげると、八潮さんは苦笑いをした。
「ずいぶんハッキリと断るんだね」
「はい。私は、貴大くんが好きなんです」
「ふん。幸せそうな顔して」
 八潮さんは鼻で笑いながらも、白い歯をのぞかせていた。



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