box of chocolates
 神社は、真夜中だというのに、大勢の参拝客がいた。
「迷子になっちゃう」
 私は、どさくさに紛れて貴大くんの手を握った。やっぱり、その手は温かかった。
「どうしていつも手が温かいの?」
「どうしてか? 心が冷たいんだよ、きっと」
「それ絶対、嘘」
 ゆっくりと境内に向かって歩く。白い息がふわふわと空へ舞う。賽銭を投げて、願いごとをする。五円玉に願いをこめて、願いごとを五つ。
「何をお願いしたの?」
「それは言わないし、聞かないよ」
 微笑みあったら、願いごとのうちのひとつは、同じ願いをしている気がした。
「ねぇ、おみくじしよ」
 私が、おみくじのほうに向かおうとしたところ、貴大くんがぐっと手を引っ張った。
「どうしたの? おみくじしないの?」
「いや、あの。あっちへ」
「どうして」
 おみくじのほうに視線を向けた時に、気がついた。視線の先に、八潮さんがいたのだ。その隣には、見たことのない女性。気付かれないうちに、その場から立ち去った。



< 111 / 184 >

この作品をシェア

pagetop