box of chocolates
aout~ウット~
 七月の間は、奥様と一緒に店に出て、フランスでの接客や、ショーケースに並ぶお菓子たちのことを教えてもらった。大きなスーパーマーケットまでお買い物にも行った。最初は奥様が連れて行ってくれたけれど、次からは、私ひとりで頼まれた物を買いに行った。街を歩いていると、時々、岩槻さんを見かけ、話しをすることもあった。まだ、お菓子には触らせてもらえず、雑用係のようだけれど、これも大事な仕事だと、いつも笑顔を絶やさなかった。

 定休日には、ご夫婦と一緒にマレ地区を散歩。マレ地区を散歩する時は、地図を頼りにしないで好きな通りを右に左に行けば良い。おしゃれなブティックや、カフェ、雑貨屋などは、ウィンドーショッピングをするのにちょうど良かった。コーヒーを買って、ヴォージュ広場でノンビリと過ごす。ヴォージュ広場は、ルイ十三世の時代にできた公園。昔の建物は、現在、画家のアトリエやレストランなんかに使われているが、なんだか貴族になったような、高貴な気分になれた。
「いつもこんな休日だけど、杏ちゃんは他に行きたいところはないの?」
「凱旋門!」
 フランスと言えば、凱旋門賞。いつか、オレも出たいと、貴大くんが言っていたから、思わずそう言ってしまった。
「エトワール凱旋門のことね。八月の最初の定休日に行きましょう」
「凱旋門って何ヶ所もあるんですか?」
「そうだよ。有名なのはエトワール凱旋門だけれど」
 勉強不足でした。









< 145 / 184 >

この作品をシェア

pagetop