box of chocolates
 十一時過ぎに東京競馬場に到着した。晴天ということもあり、午前中から観客で賑わっていた。
「あっちの芝生でお弁当を食べよう」
 私も母と同じようにピクニック気分でやってきた。あんまり気負ってもよくないし、わざわざ臨時休業してまで来たんだから、楽しまないと。そう、自分に言い聞かせながら。ピクニックシートを広げて、三人で座る。大人になってから、両親とピクニックなんてないから新鮮な気分だった。
「いただきます!」
 青空の下で食べる弁当は、とても美味しい。子どものように胸が躍った。弁当を食べていると、レースをしているのが見えた。馬券を買っているわけではないから、ただぼんやりと眺めていた。
あの中に、貴大くんがいるんだろうな。ぜんぜん顔がわからないけれど。
「ごちそうさまでした」
 食べ終わってからも、ピクニックシートに座ってノンビリとしていた。
「たまにはこんな休日もいいね」
 父が伸びをしながら寝そべった。
「あっ、私、お昼休みになったらウイナーズサークルに行くね。ダービーに出る騎手の紹介があるんだ」
「そうなの? 私たちはここにいるわ。ねぇ?」
 母が父に話しかけ、顔を見合わせた。
「ああ。広いから迷子になるなよ」
「わかってますよーだ」
 寝そべる父にあっかんべぇをした。父とそんな風に接するのは、なんだか久しぶりのような気がした。

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