box of chocolates
 レースの昼休みに、ウイナーズサークルで、ダービーに出る騎手の紹介が行われた。たくさんの観客に混じって、私は貴大くんをみつめていた。

 ポンと後ろから肩を叩かれ、父たちが見に来たと思い、振り返った。
「お久しぶり。また競馬場で会ったね」
 また、八潮さんに会った。これだけ偶然が偶然に重なると、八潮さんとどこかで会うのは必然のような気がしてきた。
「今日は、誰の応援ですか?」
「ミユキラー。御幸さんの馬だよ」
 競馬情報サイトをチェックしていたから、名前は見たことがあった。ミユキの冠名に、もしかしたらとは思っていたけれど。
「スノードロップとミユキラー。どっちが勝つかな?」
 ミユキラーは、一番人気で、スノードロップは七番人気。八潮さんは、自信満々な感じだった。
「競馬に絶対はないですから。どっちが勝つかは、レースが始まらないとわからないですよ」
「まぁね。もし、スノードロップが負けたら、オレと結婚してよ」
 八潮さんは、冗談とも本気ともつかない表情でそう言った。
「ええ、いいですよ」
 次は、負けない。貴大くんを信じているから。
「よっぽど自信があるんだね。そんな風に返事されたら、面白くないや」
 八潮さんは、笑顔を残して去っていった。




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