box of chocolates
パティシエへの道
「今日からお世話になります、川越杏です。よろしくお願いします」
 カフェ・ダンデライオンが開店前の時間に、スタッフの皆さんの前で挨拶をした。
「川越さんは、将来、実家の洋菓子店を継ぐために専門学校での勉強を終え、この店でニ年間、修行することになりました。最初の三ヶ月は、店のことを覚えてもらうための雑用中心になりますが、それ以後は、パティシエとしての勉強をしてもらう予定です」
 八潮さんが私のことを簡単に紹介した。
「それでは、今日も一日よろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
 スタッフ全員で言うと、自分の持ち場に散らばっていった。
「吉川さん」
 八潮さんがスタッフの一人に声をかけた。黒髪を綺麗に束ねた、背の高い女性だ。
「この店の副店長の吉川さんだ」
「吉川椿です」
 八潮さんから紹介を受ける。吉川さんは、同性でもドキッとしてしまうような、上品な色気を纏っていた。
「よろしくお願いします」
「店内を案内して。彼女が慣れるまでの間、よろしく頼むよ」
「わかりました」
 八潮さんは、私の肩をポンと叩いて歩いていった。私は、その後ろ姿を見送った。
「さぁ、川越さん。案内しますから、店長に見とれていないで!」
「はい」
 きつい口調で言われて、頬を赤くした。こうして、私のパティシエ修行がスタートした。





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