甘いのくださいっ!*香澄編追加しました*
それ以来、何となく俺は
その時間になると公園に行き
自然とそいつを探し姿を見つけると
ベンチの隣に座って
一緒に九九の練習をした。


そいつも日に日に
ちゃんと、言えるようになっていって
遂に九の段まで
間違えることなく言えたとき
俺たちは「やったぁー!」って
ハイタッチで喜んだ。


それからも俺たちは何となく
同じ時間帯にそこへ来ては
ただ追っかけっこしたり
なんてことない遊びをしては
一緒に過ごした。


少しずつ少しずつ
慣れてきて
色んなことも話すように
なったとき
そいつは言ったんだ。


「お母さんが作るお菓子は
めちゃくちゃ美味しいんだよ。」


って。


「ふうん、ケーキとかか?」


俺は聞き返した。


「うん。ケーキも作るし
お団子も作ってくれるよ。
だけど今は食べられないけどね。」


「食べられない?どうして?」


「お母さんはもう、いないから……。」


「ふうん。」って、
それ以上、聞くのも悪い気がして
俺は何も聞くことなく
話を終わらせた。


いつもより長く公園にいたせいか
遠くからトキさんが
「サト坊やちゃん、サト坊やちゃーん」
って、恥ずかしいくらいでけぇ声で
呼びながら探しているのが分かったから


「トキさーん、もう帰るから
でけぇ声で呼ぶなって。」


そう叫んでからそいつに振り返り
「じゃあな」って言おうとしたら


「…………さん……あっ、行かなきゃ。
じゃ、じゃあね。」


って、慌てて行ってしまったんだ。








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