恋するイフリート
葵は、大粒大程の大きさのデーツを人差指と親指でつまみゆっくりとした動作で口元に運ぶ…。
得体が知れない上に、出処の妖しい食べ物など、口に運ぶのは、正直嫌だ。
でも…
無言の威圧感を放つカリフは、例えその表情に満面の笑を浮かべていたとしても、
これを辞退する事など、許してくれないだろう…。
美里、イフリート、カリフが見守る中、葵は、
『これは…、もう、食べるしか、道は残されていない…』
という事を悟り諦めた…。
葵はこげ茶色のデーツを口に入れる…。
「…………」
「どうなの?葵ちゃんっ!」
「どうだっ!?小娘っ!?」
一瞬口を閉ざした葵の、返答を待てないのか、
美里とイフリートが身を乗り出して訪ねた。
葵は顔を上げ、そんな二人の顔を交互に眺め、答える。
「…お…おいしい…」
口の中にそれを入れた瞬間、果実が成熟しきった、
あの、独特な甘味が口の中に広がった。
すっぱさなど、何処にもなく、口に広がるのは、
自然界の造り出す、豊かな甘味…。
その昔、クレオパトラも食していた、というのも頷ける程の一品だ。
その口あたりの良い甘味に、葵は次のデーツを取り、口元へ運ぶ…。
その様子を見たイフリートは歓声を上げずにはいられなかった!
「…成功だっ!!俺の魔力が成功したぞっ!!」
喜びの余り、天に向けて拳を上げ、ガッツポーズを取るイフリートに、
カリフは満面の笑を向ける。
「ね…?だから言ったでしょう…?」
美里は…と言うと、葵を毒見変わりにしたのか、
自分も、デーツを口に運んでいた。
「…あら…、美味しいじゃない♡」
娘を毒見変わりに使うなんて、最低な親だ…。
葵がデーツを口にした事を皮切りに、三者三様が
それぞれその喜びを勝手に表現しだす…。
なんとも、まとまりのない連中だ…。
すぐに、勝手な行動をとりたがる…。
個性の強烈なこの三人をまとめられるのは…
やはり、あの男しかいないだろう…。