チェリー~君が呼ぶ、あたしの名前~
何も言えないあたしに向かって、彼女はあのか細い声で言った。
「突然、すみません。佐倉は今日から出張で…メールを送ったのは、私です」
だから佐倉は来ません。言われなくても、わかってる。彼女が現れた時から、あのメールは佐倉さんからじゃないことくらいわかってた。
違和感の謎が解ける。
今日の自分の気合いが空回りしていて、思わず笑いたくなった。
「お姉ちゃん」
ふいに彼女の後ろから声がした。今の今まで気付かなかった。彼女の後ろには、もう一人、いや、二人の女性がいた。
一人は背の高い、彼女よりかは幾分若い女性。長い髪に切れ長の目。その目があたしを一瞬睨む様に見つめた。
そしてその側にいる小さな女性。いや、女性という言葉は似つかわしくない。小さな、小さな女の子。
佐倉さんの妻だと名乗った彼女は、その女の子に向かって笑顔で言った。
「お母さん、少し用事があるから。沙那おばちゃんと、少し待っててくれるかな」
「うん、わかった」
聞き分けのいい子だと思った。相変わらずあたしを睨み続ける彼女の手を握り、その女の子は小さく頷く。