イジワル同期の恋の手ほどき
「宇佐原って、こういう趣味、あったんだ」
木製の升目状に配置された棚に、風呂敷やとっくりをおしゃれにディスプレイした店内を見渡して、思わずつぶやいていた。宇佐原はつかつかと目的の棚に近づく。
「これ、どうだ?」
そう言って宇佐原が手に取ったのは、松花堂タイプの二段式のお弁当箱。
宇佐原は意地でも私にお弁当を作らせたいらしい。
こうやって外堀を埋めて逃げられないようにする魂胆みたいだ。
目の前に差し出されたお弁当箱を手に取ってよく見てみると、蓋に和風の模様がついていて、色は落ち着いた紺色。
お箸と巾着袋がセットになっていた。
「それ、すごくいいよ。こんなお店、よく知ってたね」
「前に通りかかったことあって、気になってたからな」
さっさとお弁当箱をレジに持っていこうとする宇佐原を慌てて追いかける。
「泉田さんに渡すお弁当の練習なんだし、これは私が払うよ」
「それはやめとけ」
宇佐原がきっぱり言うので、「どうして?」と首をかしげる。
「ほかの男に使った弁当箱なんて、感じ悪いだけだぞ」
そう言われて、はっとした。
たしかに宇佐原が使ったお弁当箱をそのまま泉田さんに渡すのは申し訳ない気がする。
「それも、そうだね」
「俺が嫌なんだ」
宇佐原が向こうを向いたまま、小さな声でつぶやいた。
「えっ?」
聞き取れずに聞き返すと、宇佐原はさっとレジに向かってしまった。
「いや……なんでもない」
包んでもらったお弁当箱を手に、すたすたと店を出ていく宇佐原を小走りで追った。