イジワル同期の恋の手ほどき
「俺のために作るわけじゃないだろ?」
いつもと雰囲気の違う宇佐原の言葉の意味が、よくわからない。
「だって、食べるのは宇佐原なのに、嫌いな物入ってたら、嫌じゃない?」
「それはそうだけど……」
いつになく、口ごもる宇佐原を不審に思いながら聞いた。
「じゃあ、好きなおかずは?」
「そうだな、卵焼き」
「卵焼きかぁ……あんまり自信ないんだけど」
おそるおそる言う。
「別にいいぞ、スクランブルエッグでも、ゆで卵でも?」
宇佐原は笑いながら、皮肉たっぷりな口調で続けた。
「できないとは言ってないでしょ」
これまで、何度かチャレンジしたことはあるけれど、作るたびに形が崩れたり、焦がしてしまったりさんざんな結果に終わっている。
よし、帰ったらもう一回特訓してみよう。
そこへ、料理を持ってきた店員が、テーブルに広げられた空っぽのお弁当箱に視線を落とし、クスッと笑ったから、慌てて片づける。
「こんなところで、広げるからだ、バカ」
宇佐原におでこをコツンと叩かれて、プーと膨れてみせる。