イジワル同期の恋の手ほどき
その日の会社帰り、宇佐原と近くの公園に来ていた。
高速道路の下にあるため、ほとんど人が来ない穴場で、ライトアップされた川向かいのレトロビルが美しい。
「よし、飲むぞ。どれから開ける?」
コンビニで調達したおつまみをベンチに広げ、宇佐原がわくわくした顔で聞く。
「まずはビールでしょ」
缶ビールを紙コップに注いで、宇佐原に手渡す。
「宇佐原、ほんとにありがとう、これもらってくれて」
私は乾杯しながら、宇佐原をじっと見る。
「いや、出すぎた真似しちまったと反省してる」
宇佐原が頭をかいた。
「えっ、なんで?」
「泉田さんも照れてただけなのかもと思ってな」
「どういうこと?」
「ほら、気になる子に意地悪したくなるのが、男の性分っていうか」
「それ、小学生だけでしょ」
思わず目を丸くする。
「わかってないな。あの後、じっと見てたんだよな、机に置いたおまえのお土産」
「えっ」
「惜しいことしたって、思ってたんじゃないかな。まっ、そんなこと気づかないふりしてやったけど」
宇佐原の真っ白の歯が、夕暮れの景色の中で輝く。
「日本酒好きな人なら、絶対に惜しくなるはずよね。あそこの地酒なんて、めったに飲めないのに」
宇佐原が噴き出す。あれっ、なんか変なこと言った、私?
「ハハハ、ポイントはそこじゃないだろ。おまえからのお土産だからだろ」
「へっ? だって、迷惑そうだったし」
心底意味がわからない。
「おまえさ、もうちょっと男の機微、勉強しろ」
「機微?」
「まあ、いいから飲め」
それから私たちはこっちがおいしい、いやこっちだと飲み比べして、すっかりほろ酔い気分になった。
「ああ、おいしかった。宇佐原がもらってくれたから、ふたりで飲めたね。んー、酔っ払った」
ふわりと宇佐原の肩に寄りかかる。
「おい、大丈夫か?」
宇佐原にそっと肩を抱き寄せられた。
「うん、めちゃくちゃ、いい気分だよ、えへへ。風が気持ちいいね」
「ああ」
「今日は、楽しかったなー。宇佐原、最高!」
大声で空に向かって叫ぶと、橋の上を歩く人たちが驚いて振り返る。
「わかった、わかった。いい気分なのはわかったから」
その後もうにゃうにゃとなにか言おうとしたが、意識がもうろうとしてよく覚えていない。
宇佐原に肩を優しく叩かれるのがとても心地良くて、ずっとこうしてたいとぼんやり考えていたことだけ覚えている。
「そろそろ帰るか?」
次にうっすらと意識を取り戻したのは、宇佐原のひと言だった。