イジワル同期の恋の手ほどき

「宇佐原、ちょっと、ごめん……」

一時間ほど走った頃、私は気分が悪くなり口を押さえて助手席で身をかがめる。

「どうした?」

「気持ち……悪い……」

慌てて車を路肩に寄せて、宇佐原が優しく背中をさすってくれる。

「車酔いか?」

「うん……」

「もしかして、車弱いのか?」

心配そうな宇佐原の顔が目に入る。

「普段は大丈夫なんだけど、お腹が空くとダメなの……」

「とりあえず、シートベルト外して、窓少し開けるぞ」

「うん」

宇佐原が運転席から手を伸ばして、シートベルトの解除ボタンを押し、手早く助手席側の窓と運転席のうしろの窓を開けた。

「大丈夫か、顔真っ青だ」

宇佐原がそっと頬に触れ、額の脂汗をハンカチでふいてくれる手つきが優しい。
心配そうに覗き込む宇佐原の目を見て、なんとか微笑んでうなずく。

「水、飲むか?」

ペットボトルを手渡されたときに触れた指先に、宇佐原がはっとする。

「手がこんなに冷たいじゃないか」

ペットボトルを握った手を両手で包まれた。
宇佐原の手が温かくてほっとする。
手の甲を優しくなでてくれるのが心地いい。

「ちょっと、休んだほうがいい。シート倒すぞ」

こくりとうなずくと、助手席の窓際にあるレバーに手を伸ばして座席のシートをゆっくりと一番深くまで倒す。
結構すごいシチュエーションだけど、そんなことを気にしている余裕はまったくなかった。

「もしかして、体調悪かったのか?」

シートに片手をついたまま、心配そうな顔で覗き込まれた。

「違うの、ちょっと寝不足で」

「なんでだ?」

宇佐原の手がそっと乱れた前髪をなおしてくれた。

「それは……」

お弁当の下ごしらえのために夜遅くなり、しかも五時起きしたなどとは絶対に言いたくなかった。

「遠足前の小学生か?」

宇佐原が追及をやめてくれたので、ほっとして、「違うわよ」いつもの調子を取り戻した。

「まあ、しばらく休んでろ。俺も休憩してるから」

シートを同じ高さに倒して、宇佐原が横になる。
数十センチ横に宇佐原の顔があり、慌てて目を逸らすと、宇佐原がくすくす笑っている。

「宇佐原、ごめんね。せっかくのデートが台無し……」

額に手をあててそう言うと、宇佐原は目を見張る。

『デートだって?』
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