イジワル同期の恋の手ほどき

「お先でした」

お風呂から上がって、宇佐原に借りたTシャツとハーフパンツを着て、居間に戻る。
長い足を優雅に組んで、テレビを見ていた宇佐原が優しく微笑んだ。

「俺も、入ってくる。冷蔵庫の飲み物、どれでも適当に飲んでいいから」

「うん、わかった」

テレビ画面にはハイビジョンで撮影された冠雪した北海道の山が映っていた。
宇佐原は学生時代ワンダーホーゲル部に所属していて、今でも年に数回は登山をしているらしい。
リビングの本棚にも有名な山雑誌が何冊も並んでいた。

机の上に置いてあるカタログは私たちの会社の家庭用家具の分冊。
付箋が貼ってあるので、開いてみると、デスクとチェアーだった。

窓際に置いてあるデスクを振り返る。
大きくて重厚なデスクがあるけど、買い替えるのかな?
その横には鉛筆のラフスケッチがあり、家の間取りと家具の配置図が書かれていた。


ひとりになるとつい、部屋の中を見回してしまう。
もっと汚いと思っていたのに、掃除は行き届いていた。
ひとりで暮らすには広すぎる2LDKの部屋。

この前から気になっているテラスに出てみると、木製の椅子が一脚置いてあって、ここで休日に読書する宇佐原の姿が浮かんだ。
歩くと微かにきしむウッドデッキの床に色鮮やかに紅葉した葉っぱが落ちていて思わず拾う。

夜風が思いのほかひんやり感じたので部屋に戻る。
リビングの窓は高い天井まで一続きになっていて、上の方はどうやって掃除するのだろうなどと考えてしまう。

男の人の部屋って、こんな感じなのかな。
いや、これはかなりおしゃれな部類のはず。
ぼんやりとそんなことを考えたりした。

驚いたのはバスルーム。
ホテルみたいにガラス張だった。
バスタブは広々としていてジャグジーのスイッチがついていたので押してみたら、底からボコボコ泡がわいておもしろかった。
足を思いっ切り伸ばしてみると、緊張が少しほぐれた。知らない間に肩に力が入っていたみたい。

それにしても、女性用のシャンプーなんて置いてしまって、大丈夫だったのかな。
また、よけいなことを考え始める頭をブルブルと振った。

そうか、女性が頻繁に来るから、あえて置いておくんだ。

その考えに至った時、なぜか胸がズキンとした。
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