イジワル同期の恋の手ほどき
「い、嫌じゃ、ない……」
触れている宇佐原の心臓の音が、やたらと速い。
それに呼応して自分の心臓もどんどん脈が加速するのがわかる。
さっきから呼吸も苦しくて、喉になにかがつかえているようで、うまく声が出せない。
「今でも、泉田さんが好きなのか?」
耳に宇佐原の熱い息がかかり、まともに頭が働かない。
「わからない……」
小さな声でささやくと、両手で頬を包んで、顔を覗き込まれた。
「だったら、俺は? 俺のことは、嫌いか?」
宇佐原の声から完全に、いつもの余裕が失われていた。
私の答えを息をつめて待っているのがわかる。
至近距離でじっと見つめられて、視線を逸らすことができない。
「嫌い、じゃない……」
宇佐原の目を見つめながら、何とか答えると、宇佐原の瞳が大きく揺らいだ。
宇佐原が急にこんなことを言いだすと思っていなくて、どうしたらいいんだろう。
「じゃあ、好きか?」
息が詰まりそうな、間。
瞬きする音まで聞こえそうなほど、周りの音がなにも聞こえない。
心臓がさっきからずっと、うるさいほどに鳴っている。
頬が熱を帯びているのが自分でもわかる。
「わ……から……な……い」
口の中がからからに乾いていて、うまくしゃべれない。
同期として、親友としての宇佐原は間違いなく好きだ。
それは迷わずに答えられる。
でも、宇佐原をそういうふうには見たことがなかったから、急にそんなことを言われてもわからない。
「だったら、今から試してみろよ」