滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

「部長、唇に傷痕ありますね。大丈夫ですか?」


痛々しそうに唇を一点に見つめる相手に、
俺はふと隣に立つ奈緒子さんに目をやってみる。



「…」



黙って俯いたまま何も話さない。




「あぁ、大丈夫ですよ。ちょっと…噛まれちゃってね」

「なっ!」



わざとらしく俺が言うと、奈緒子さんは慌てて顔を上げて何か言いたげに俺を見つめてきた。




「えー?部長の唇噛むなんて、信じられないですぅ!猫とかですか!?」



気持ち悪い甘ったるい声を出しながら騒ぐ女性に、そうですね…とニヤリと笑いながら奈緒子さんと視線がぶつかる。







「まだまだ躾が出来てなくて。これからちゃんと教えないと…ね」

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