滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
街の雑踏から少し離れた場所にある公園。
家族連れが楽しそうに遊んでいる光景を見ながら、
私達はベンチに座ってカステラを食べていた。
「…そうなんだ。全然気づかなかった」
彼は両膝に肘をつき、前かがみになりながらジッと前を見つめる。
さりげなく自分の家族の話をすると黙って聞いてくれた。
さすがに見合いの話まではしなかったが。
「奈緒子さんは何で店を継ごうと思わなかったの?」
「…やっぱり子供ながらに和菓子はかっこ悪いみたいな固定概念があって、可愛いケーキとかそっちの方がよかったなって感じてたから…かな」
もっとおしゃれで綺麗な洋菓子にずっと憧れてたし、
家業を継ぐなんて気なんてさらさらなかった。
どんなに由緒ある店でも私には関係ないってずっと鼻で笑っていた。
でも今、こうして大人になってから父親の凄さとか店の評判とか知って、
夏目屋は凄い店なんだなって実感するようになった。