滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

ーードキッ!!



まさか俊介の名前がこんな場所で聞かされるとは思いもよらず、
ついつい反応してしまった私。




「…」



ジッと私を見上げてくる彼の目線が更に私を追い詰めていく。



「いや、そ、そんな…、急に…!」



彼から逃げるように目線を逸らしても、
相手は真っ直ぐ見つめてくる。


また心を見透かされているんじゃないかとあたふたしながら言葉を選んでいると、
もういいよ。と小さくため息をついた彼がゆっくり立ち上がった。





「まだ悩むってことは俺はまだまだダメなんだね…。これじゃ一生藤堂に勝てないや」





遠い目をしながら呟く彼の姿を見た途端、
無性に胸が切なくなって苦しくなってしまった。



もう他人行儀みたいな口調が彼らしくなくて、
それが妙に寂しく感じてしまったのだ。




「あ、あの…」

「長い時間付き合わせちゃってごめんね。じゃ、また明日会社で」

< 151 / 262 >

この作品をシェア

pagetop