滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「ーーちょっ!奈緒子さんっ!?」
「ごっ、ごめん!」
一瞬グラッと揺れた車体に蒼が目を丸くして驚く。
ーーいきなりそんなこと言うからでしょっ!!
本望…だなんて。
でもちょっと嬉しい、かも。
たとえ冗談だとしても、
そう思ってくれるだけで、私までにやけてしまいそうだ。
だが、ここはあえて何事もなかったフリをしなければ…!
「でも、よくうちの場所がわかったね」
「ネットで調べたんだ」
「わざわざ来てくれるなんて思わなかったよ」
正月のせいか道路は全く混み合うことなく順調に走り続ける。
天気も良好で雲一つない快晴だ。
「…見て見たかったんだ、奈緒子さんの実家」
流れゆく景色を眺めながら蒼がポツリと呟く。
私は考え深げに話す蒼を横目でチラッと見て、再び前を見つめた。
その遠くを眺める目が時々不安に駆られるときがある。
何を考えて何を思うのか、
それは蒼にしかわからない気持ちだけに。
「お母さん、奈緒子さんにソックリだね」
「あ、それよく言われるの昔から。私はお父さんよりお母さんに似たのかも」