滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

「そう、なんだ。変なこと聞いてごめんね」

「いいよ？俺から親の話振ったんだし」




蒼がニッと私に笑いかけてくれたその笑顔で、ほんの少し救われた気がした。



「でも母親はもう病気で死んでいないんだ。だから俺は天涯孤独！誰にも頼れる人いねーんだ」

「お父さんとは全く会ってないの？」

「この前会ったけど、ほんの数分だけ。あっちも俺のことキライみたい。まーそっちの方が俺的にはありがたいけどねー」



陽気に話す姿は複雑な家庭環境を全く気にしていない様子。




でも早くに母親を亡くすなんて、

蒼は私が考えている以上に波乱な人生を送っているのかもしれない。




「アメリカにいたのは留学とかしてるの？」

「母親の病気を見てもらってたから、そのま住んだんだ」




次々に明らかになる蒼のプライベート。


それは私がずっと知りたかった彼の本当の姿。




私の上司ではない、等身大の蒼だ。




「でもさ、正直アメリカにいてもやりたいこともないしつまらないから、そろそろ日本に戻ろうかと思ってたんだ。そんな時に出会ったんだよ、奈緒子さんに」