滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
サラッと私の名前が出てきて、一瞬胸がドキッと高鳴る。
「奈緒子さんと別れたとき後先考えないでこっちに来たのは、きっと運命だったのかなぁ」
窓の外に広がる広大な空を眺める蒼の目には、
あの時の光景や出来事が走馬灯のように流れているのだろう。
一夜限りの関係で終わるはずだった私達のはずが、
今では同じ時間、同じ空間を共にして、
当時の話を思い出のように語り合ってる。
蒼が私に会いたい一心で会社に入り込み、
上司となって再び姿を表したあの驚きも、今となっては過去の話だ。
「不思議だね」
「そうだね」
私があの日アメリカに行かなかったら、
あの時間に観光してなかったら、
あの瞬間蒼に出会ってなかったら、
二人は一緒他人同士のままで終わっていた。
そしてまた違った時間の過ごし方を送っていたのだろう。
「俺、奈緒子さんに出会ってよかったなって心底思うよ。だってすげー好きだもん、今でも」
そうやって嬉しいこと言ってくれるのは嬉しい。
だけどまた動揺して…!
「ーーなっ、奈緒子さんっ!?うわぁっ」
一本道の広い道路で蛇行運転する私の車は明らかに危ない走行だった。