滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「ねぇ!私さ、あのカフェに財布忘れなかった!?」
「え?」
「無いのよ、バックの中に!ホテルに帰ってきて確認したら見当たらなくて…」
「何言ってるの、ちゃんとバックに入れてたじゃない。自分で」
血相変えて話す私とは裏腹、
彼はまるで他人事のように平然と話している。
「そう…だったっけ…」
「そうだよ。慌てたから覚えてないんじゃない?奈緒子さん」
その場に居合わせた彼がそう言うなら、間違いないのかもしれない。
「…嘘じゃないわよね?はたまた、貴方が持ってるとか」
疑いたくはないが念のため、一応聞いてみる。
「やだなぁ、俺の事疑ってる?それに持っていたところで、どうやって奈緒子さんに返すの?財布にホテルの連絡先でも書いてあるとか?」