滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
言われてみればそうだ。
あんな別れ方をして、お互い連絡先すら交換してないんだから、
財布を預かっていたところで会える手段なんかない。
それに財布にはホテル関係の領収書も入っていないし、
どう考えても私の手元に戻ってくる確率は低い…。
どっちみちもう返ってこないんだ。
「…とりあえず話聞くよ?立ち話もなんだから何処かに移動しよっか」
ガッカリした私の姿がよほど目に余ったのか、
彼は心配そうな表情を浮かべてそっと背中に手を回し優しくさすってくれた。
私はうなだれながら、
彼に引かれるようにホテル内にあるレストランへ向かった。