滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
蒼もカッときたのか、私の肩を掴んで強引に自分の方へ体を向かせる。
「…」
その目に飛び込んできたのは、
思いもがけない私の姿だった。
「…どうして泣いてるの?」
俯いたまま床にポタポタと涙を落とす私を見て、蒼が驚いたまま呟く。
「やっぱりお父さんの事が心配…」
「ーー違う、違うわよ」
親の事よりもショックだったこと。
それは、あの時に嘘でもいいから私の彼氏と言ってくれなかった事だった。
赤の他人だったら、
いくらでも裏の顔で上司だと何だの言っても構わない。
でも、せめて自分の親には本当の蒼の姿を見せて欲しかったんだ。
あれだけ色んな事を話してくれたのに、
いまさら上司づらされたって嬉しくも何ともないよ。
「奈緒子さん、俺何か悪いことした?」
自分で言った事に対しても気づいていないんだ。
きっと蒼の中では、
当然の接し方だったんだ。