滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

「奈緒子さん?」



後ろから呼ばれた聞き覚えある声に私は思わずハッとした。




そしてゆっくり振り返ると、

そこには驚いた様子で私を見つめている蒼の姿があった。



手にはコンビニ袋を持ち、温かい格好をして冷たい空気の中、白い息を吐いている。




「何してんの?んなとこで突っ立って」




プッと小馬鹿にするように笑う蒼。




朝から衝撃的な事実を聞かされ、
今の今まで蒼の姿を探し求めていた私に、その言い草はないだろう。





「…ずるい、ずるいよ」

「え?」

「私が一日どんな思いで過ごしたか…!」





最初から最後まで蒼に振り回されっぱなしで

だけどずっと蒼のことが頭から離れなくて、





悔しいけど、悔しいけど、





「何処にも、行かないでよ…、ばかっっ」






ずっと会いたかったんだよーー!








走り出してそのまま勢いよく飛び込んだ蒼の胸の中。



その反動で蒼の手からコンビニ袋が落ちて、
温めた弁当が無惨にもひっくり返る。




しかしギュッと私を抱きしめる腕は力強くて、夢じゃないんだと確信出来た。

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