滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
「うん。アポロシアター見たかったし…」
そう答えると、彼はさっきまでの笑顔から一変険しい表情をした。
「ガイドブックに載ってなかった?今はそこまで悪くないけど、昔はとても治安が悪い地域で観光には向いてない場所なんだよ」
彼は険しい表情をして続ける。
「特に、見るからにアジア系の観光客は悪い奴に狙われやすくて、スリも自分が気づかない間にされたり…」
「じゃ、もしかして…」
「一概には言い切れないですけど。それにアメリカじゃ落としても返ってこないのが当たり前。金目系は特に」
彼の口から聞かされる話に私はただ戸惑うばかりだ。
「落とした人間の責任と解釈されて、交番に届けるほんの一部の人間以外は自分のものにしちゃうんだ」