滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬

私がそう聞くと、ピタリとカトラリーを持つ手が止まった。


「何か用事でも…?」



彼は偶然だね。と私を呼び止めた。

ということは何か訳があってここにいたに違いない。



「あ…、あ、ほら雨が降ってきたじゃん?だから中で雨宿りしてたんだ。傘も持っていなかったから」


今思えば詰まる言葉が何とも怪しさを醸し出していたのだが、

単純な私はそうなんだと普通に解釈しそのまま食事を続けていた。




「あ、そうだ。奈緒子さんアルコール飲める?このレストラン、ワインセレクション豊富なんだよ。一杯どう?」



話題をすんなりと上手切り返した彼は、メニューを開き私に進めてきた。



「そうだね。せっかくだし飲んでみようかな。」

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