滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
ニコッと笑う彼はもはやあの時の彼ではなく、
部長、真壁蒼の姿と変身していた。
本来なら話したいことも聞きたいことも山ほどある。
だが根掘り葉掘り聞く事は彼にとってタブーのような気がして、
私は戸惑いながらも資料を手にしてその場を去った。
彼の事を考えるよりも、
今は新しく開発チームの一員となったのだから頑張って協力しなくちゃ…!
「お疲れ様ー」
定刻があっという間に過ぎ、
部には私だけがポツンと取り残されている。
彼に言われた通り、残っている仕事を今日中に終わらせるためだ。
「…あれ?」
その時、声が聞こえておもむろに後ろに振り返ると、
そこには俊介が驚いた様子で私を見つめていた。