滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
別れてからはずっと苗字でしか呼ばれていなかったから、
思わずドキッと心臓が一瞬大きく飛び跳ねてしまった。
「…ごめん」
「あ、い、いや、別に…」
目を泳がせながら謝る俊介に、
私は動揺しっぱなし。
嫌いで別れたらこんなにも動揺しなかったかもしれない。
ということは、私はまだ…。
「あ、あのさあの財布、何で部長が持ってたの?」
少し言いにくそうに話す俊介に、
私は手を止めてその横顔を見つめた。
「久しぶりって言ってたし。知り合いなの?」
「知り合い…っていうか、んー…まぁ」
傷心旅行で行ったアメリカでまさか出会ったなんて、言えるわけがない。
ましてや、一夜を共にしたなんて絶対に。