滴る雫は甘くてほろ苦い媚薬
そしてあらかじめテーブルの上に用意されていたガラスの箱に手を伸ばし、
中から葉巻を取ると近くにあった金色にギラギラ光るライターで先端に火をつけた。
これで背後にスーツを着た数人の野郎共を引き連れていたら、
さながら映画に出てくるマフィアのボスのような風格さえ感じられる。
「三ヶ月…、充分だな」
俺は男と目線すら合わせず紙束とファイルを小脇に抱え部屋の扉へ向かう。
ただこの会社に入るためのツテが欲しくてわざわざ足を運んだだけで、
それ意外の話も無ければ用事もないのだ。
「蒼」
名前を呼ばれ、扉のドアノブに伸ばした手が一瞬止まる。
「その…、涼子は…元気なのか?」
白煙を口から吐き出しながら神妙な表情で少し離れた場所から俺の背中を見つめる男。