赤い流れ星




「美幸、どうしたんだ?
もう食べないのか?」

「え?…あ…あぁ、食べるよ…」



不思議だった。
あんなに大好きな声優さんと間近で会えてサインまで描いてもらって……
欲しかったイラスト集も買ってもらえたっていうのに、思った程、嬉しくない。
いや、嬉しいのは嬉しいんだけど、もっと大きな感動があるかと思ってた。

サイン会までの時間潰しに入った服屋さんでも、私は服選びにあんまり身が入らず、母さんが勧める服を適当に買ってもらった。
どんなのを買ったのかさえいまいち覚えてない。
あんなに楽しみにしてたのに、私、どうしちゃったんだろう…?



私がぼんやりしてるのを見て二人は心配し、サイン会の後、近くで夕食を食べて帰ることになった。
どうやらおなかがすいてぼんやりしてると思われたみたい。
でも、私のぼんやりの理由はそんなことじゃない……



家に戻ってからも、やっぱり元気は出なかった。
持って帰るのは重いから、一応、送る準備はしたものの、どうにも気持ちがざわめいてすっきりしない。
こんな気持ちになってるのも、すべてはシュウのせい……



(やっぱり、嫌いになって来たのかな…)



こっちの世界に来たことで、設定が変わって来たのか……
いやいや、そもそも、シュウはあの物語の中のひかりが好きなわけで、この私が好きなわけじゃないんだもの。
でも、あのひかりは私をモデルにしてて、ほぼ私の分身と言っても良い。
考えることもすることもほとんど私のまんまだもんなぁ…
こういう場合はどうなるんだろ?

でも、考えても考えても答なんて出るはずもなくて、私はそのままほとんど眠れないまま夜を明かした。







「美幸…本当に戻るの?
もっといたら良いのに……」

「うん、でも…私、自立したいから。
もう少し自分に自信が持てるようになりたいから……
今、頑張らないとだめなんだ。」



ちょっと迷った。
シュウが心配するまでずっとこっちにいてやろうかとも考えた。
でも…やっぱり早く会いたくて……
それで、私は戻ることにした。



「今から帰る」とメールを打ったら、返って来たのは「気をつけて帰って来いよ!」っていう短いメールだけだった。
まぁ、どうせそんなことだと思ってたけど、「何時に着くんだ?」とか「迎えに行こうか?」とかないものだろうか?
昨日買ってもらった新しい服もなんだかちっとも嬉しくない。
だいたい、私にピンクなんて似合わないのに、母さんったらどういうセンスしてるんだか……
でも、さすがにジャージよりはマシか。
今までの私って、どんだけ構ってなかったんだろ。
こんなんじゃ、シュウに愛想をつかされるのも当然だ。
私は今更にしてそんなことに気が付き、自分自身にがっかりした。
< 66 / 171 >

この作品をシェア

pagetop