予言と過去
「ライネス。私が誰だか解る?」
ぼんやりとした思考の中、不意に そんな言葉が聴こえて来て、俺は ゆっくり顔を上げた。懐かしい声が、聴こえた気が したんだ。
見上げた視界に映った少女を見て、俺の脳裏に かつての幼馴染みの笑顔が浮かんだ。
「……リ……ホ……?」
4年間 忘れていた。リホと言う幼馴染みが居た事を。
「そうだよ。ね、だから大丈夫。」
彼女は そう言いながら近付き、そっと俺の腕を触った。
「っ!!」
その瞬間、無意識に躰が跳ね、再び記憶がフラッシュバックした。
伸ばされる、無数の腕。目の前のリホの白く華奢な腕と、記憶の中の それが重なった。喉の奥から塊が込み上げて来て、俺は身を屈めて嘔吐した。
「ライネス!?」
慌てて背中を摩ろうとしたリホの手は、その寸前で止められた。
ああ、彼女は解ってくれている。俺が人に触られるのを怖がっている事を。
何処迄も優しい幼馴染み。俺が どんなに重い罪を犯したのかも知らず、唯 純粋に俺を心配してくれている。
だからこそ、これ以上、傷付けたくない。
肩で息を しながら、俺は必死に言葉を紡いだ。
「……御免、リホ……俺……っ。」
「大丈夫、解ってる。」
リホは そう言って笑った。寂しそうな、笑顔で。
「触っても、良い?」
小さく、頷いた。
今なら、大丈夫な気がした。
彼女に回復(ヒール)を掛けて貰っている間、目を瞑って昔の事を うっすらと思い出していた。
そうしたら、俺は もう大丈夫な気がしたんだ。