禁域―秘密の愛―【完】
桐谷君も、話す前の印象は怖い人だった。けれど、それともまた違う。
桐谷君は雰囲気が怖いだけで、そこから敵意のようなものは一切感じられなかった。
だけど………、この人は。
「蓮、そんなに強い口調で言ったら、瞳ちゃん怯えちゃうでしょ?
ごめんね、瞳ちゃん。雰囲気はこんな感じだけどいい人なの」
かれんちゃんが、彼を庇うようにそう言った。
「ううん、平気………」
強がってそう言ってはみたものの、心臓は強く脈打っていた。
ーーーどうしても、この人からは敵意を感じる。
初対面なのにどうして?
なんだか………、早くこの場を去りたい。
「かれん、もう診察の時間だ。行かないといけないだろ」
「そうね。藤咲先生、首を長くして待ってるね、きっと」
かれんちゃんは、クスリと藤咲君に笑いかける。
すると彼は、ちょっと照れたようにそっぽを向いた。
「靴箱前で待ってるから、早く来いよ」
「ありがとう、蓮」
かれんちゃんと私の前から、藤咲君は去って行った。
その時、私は一気に緊張が解れたのを感じた。
本当に、何だったんだろう………?