危険なキス
 
「ははっ……おもしれー……」
「せ、せんせい……?」


あたしは、急にケラケラと笑う先生に呆気にとられて、つい怒りを忘れてしまった。


「そんなふうに言われたの、初めてだ」


何が面白いのか、先生は気が済むまで笑うと、再びあたしに近づいて顔を覗き込んだ。


「だから言ったろ?
 ”またな”って」

「そ、そうだけど……」


確かに、最後の家庭教師の日、先生はそう言って別れた。

だからあたしは、いつものように今度は水曜日に来るものだと思ってた。
だけどその日の夜、お母さんから聞かされたのは、先生が辞めたということ。


「俺は嘘はついてねーよ」

「……でも、性格ねじ曲がってますね」

「よく言われる」


あたしの嫌味にも、軽く笑って流す。


なんだかもう、今までずっと悩んでいた自分がバカみたいだ。
 
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