危険なキス
 
「俺さー、てっきりお前ら、もう付き合ってんのかと思ってた」
「あ?べつに付き合ってねーよ」
「そう。お姫様にも言われた」
「……っつか、その、お姫様っての、どうにかなんねーの?」
「えー、だって奏人のお姫様だろ?」
「そんなんじゃねぇっつーの」


目を逸らして、グラスの酒を飲み干した。

すぐに店員を呼ぶと、雅人の分も合わせてビールを2つ追加した。


「でも好きなんでしょ?彼女のこと」
「……」


何も言い返せない。

「好きじゃない」って否定したいけど、たぶんこいつには、そんな嘘通用しない。
だからといって、好きと認めるのも嫌だった。


「いつまで過去を引きずってるかねぇ……」
「その話はすんな」


雅人は、俺が過去に、どんなことがあったか知っている。
大学に入って意気投合して、こんなふうに飲みに行ったときに、話したことがあった。


「いい加減、自分を許してあげてもいいと思うけど?」
「その話をするなって言ってんだろ!!」


思わず声を荒げてしまった。

だけど雅人は驚くこともせず、ただ俺を見据えていた。
 
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