君が好きだから嘘をつく
揺れる気持ち
楓に肩を突き飛ばされて椅子の背にもたれるように座った健吾は、さっき楓が出て行ったドアをずっと見つめていた。

楓が向かいの席に座って声をかけてきた時、寝ているように見せたが本当は起きていた。

コーヒーショップの前で楓とあの男の向き合って仲良さそうに話す姿や、楓に触れたところを見た時から複雑な気持ちに襲われてうまく感情をコントロールできていない。
いや違う、楓を結婚式の2次会の会場まで迎えに行った時に、あの男が楓を追いかけて来たのを見た瞬間からこの苛立ちが続いているんだ。
晴れない気持ちで美好に来て、ハイペースで飲んでも酔えなかった。

ため息が出てテーブルに顔を伏せて暫く目を閉じていると、楓が店に来たらしく向かいの席に座ってきた。
楓に声をかけられたけど、うまく話せない気がしてそのまま瞳を閉じたままでいた。
そして少し経ってもう一度声をかけられた時、それまで閉じていた瞳を開けた。
髪の隙間から見えた楓の顔は思っていたよりもそばにあって、その顔を見つめてしまった。
その上さらに顔を寄せて来て瞳が近づいた。

見慣れた顔なのに、なぜかすごく惹かれた。

そしてあの男が楓を触れていたのを思い出して、楓の腕を掴んで引き寄せていた。

触れた楓を離すことができず、突き飛ばされてやっと我に返った。

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