君が好きだから嘘をつく
「やべ~、何であんなことしちゃったんだ・・・」

楓にキスしてしまった感情が複雑で、右手で頭をガシガシ掻いた。

あいつが綺麗な顔をしているのは充分分かっているのに、何で今更あんなに惹かれたんだ?

やばいよな。あいつ怒ってるかな・・・

ため息をつき、晴れない気持ちのまま椅子の上に置いたビジネスバッグを持ってカウンターに向かって歩く。

「おばちゃん!帰るわ」

「は~い」

奥から手を拭きながらおばちゃんがこっちに来る。健吾越しにキョロキョロと周りを見て訪ねてくる。

「あれ?楓ちゃんは」

「あ~、さっき帰った。会計一緒にして」

「楓ちゃんたら健吾くんが酔いつぶれていると思って送って行くって言っていたのに、起きなかったのかい?こんなに遅い時間に一人で帰しちゃだめだよ」

怒られながら会計を済まして店を出た。
外に出ると冷たい風に包まれて、歩きながら楓がちゃんと帰ったのか気になり携帯を取り出して画面を出した。

そこに表示されているのは楓の番号。
今日飲みながら何度も見ていた。

ここで飲む時は楓と一緒ということが染み付いていて、物足りなさを感じ何度も電話するか悩んだ。
でも、気持ちに引っ掛かりがあってかけられなかった。
だから諦めてテーブルの上に顔を伏せていると、楓が来て向かいの席に座ったのに顔が上げられなかった。
また日曜日迎えに行った時のように楓に突っかかってしまいそうだったから。
今だってすぐに電話してさっきのこと謝らなければいけないのに、それすらできずに携帯をしまって駅に向かって歩き出した。

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