君が好きだから嘘をつく
「何しているんですか?」

すぐそばで声をかけられたので顔を上げると、笑いながら澤田くんがこっちを見下ろしている。
見上げたので口が開いたままになる。

「残業だよ、澤田くんは今戻ったの?」

「いえ、少し前に戻ってましたけど、今井さんボーッとしながらクルクル回っていたんで」

「まぁね~・・う~ん、ちょっと考え事してたから」

周りを見ると、さっきまで残っていた人達がほとんどいなくなっている。
いつの間に帰宅したんだろう?そんなに長い時間ボーッとしていたかな?

「とりあえずコーヒー淹れましたけど、今井さん飲みますか?」

ドリップしたコーヒーに砂糖とミルクを添えて目の前に置いてくれた。あ~、いい匂い。

「ありがとう、いただきます」

仕事の後で甘いものが欲しいので、砂糖とミルクの両方を入れて一口飲んだ。うん、美味しい。

「それで?今井さんはどんな考え事していたんですか?」

「う~ん・・・あれ?山中くんはまだ帰って来てない?」

とりあえず彼の存在が気になって聞いてみた。
彼の前で話せる内容じゃないからだ。

「ん?ああ、まだ帰ってないみたいですね」

「そっか、じゃあ・・・ここ座って」

澤田くんを立たせたまま話すのも違和感があるので、隣の席の椅子を引いて座るように伝えた。
彼は座ると自然な感じで長い足を組み、手にしたコーヒーを口にした。
そんな姿まで絵になっている。この人もフリーなんだから罪だよね。

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