甘き死の花、愛しき絶望
 今、飛び降りた少年が、うつろな目をしたまま、立ち上がったのだ。

 どこかの高校の制服らしい、学ラン姿と顔つきから察するに、十五、六ほどの年齢か。

 そんな少年が、高層ビルから落ちたのだ。

 彼のカラダはもちろん、無事とは言えなかった。

 彼が、ゆっくりと起き上がれば、右肩の骨が砕け、腕がありえない方に曲がっているのが見てとれた。

 そして、何よりも、少年の右側頭部の頭蓋骨がごっそり、ぼこっと陥没しているのが判る。

 少年の見た目は、明らかに重傷で、今すぐ死んでもおかしくない。ぼろぼろの状態だった。

 ……にもかかわらず。

 彼は、何事もなかったかのように起き上がると、よろよろと歩き出した。

 まるで、無残に破壊された自分の身体や、折れた足にも気がつかないかのように。

 先ほどまで響いていた狂った笑いの代わりに、恐ろしいほどのしゃがれ声で繰り返し、つぶやきながら、人混みをかき分ける。

「死ねなかった死ねなかった死ねなかった死ねなかった死ねなかった死ねなかった死ねなかった死ねなかった死ねなかった」

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