甘き死の花、愛しき絶望
 その感情がまるで見当たらない声に、先ほどの大笑よりも、深い狂気を感じて怖くなったのか。

 野次馬達は自然と少年に道を空けていた。

 けれども、当の本人は、全てを気にしていないようだった。

 自分に負った傷も周りを取り巻く人々にも、一切関心を持たず、同じ言葉を繰り返し呟いている。

 少年のカラダは、落下によって、かなり深刻に破壊されたはずなのに、血は、一滴も出てない。しかも、一足歩くごとに、彼の傷は癒えるようだった。

 砕けた肩は持ち上がり、ありえない方向に曲がったはずの手は、ぐるんと回って、定位置についた。

 けれども、驚異の回復力を見せるたびに、その手の甲から、親指の先ほどの小さな花のような黒い痣(あざ)がぽちっとひとつ、出現した。

 と、見るまに、ぶわっと爆発するように、桜の花形の痣が少年の身体中に増えてゆく。

 ぼろ布に変わり果てた学ランの隙間からその痣を見つけた者が、更に一歩下がって叫んだ。

「こいつ、花葬者(かそうしゃ)だ……!」

 まるで、指さすように突き刺さるその声に、野次馬達の表情が一変した。

 今まで、前に進む少年に道を開けていたとはいえ。

 彼に向かって近寄り気味だった、野次馬や通りすがりとかいったヒトビトの群れが、一気に拡散したのだ。
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