一生もんの道化師
だからとりあえず今日の所は最初の一歩が踏み出せれば良いかな、と。


この出来事をきっかけに、これからもうちょっとフレンドリーに話しかけてもらえるようになれれば、それでめっけもんという事で。


我ながら牛歩な恋心だとは思うけど。


欲張って、多くを望んではいけない。


自分自身にそう言い聞かせながら、紅茶とコーヒーをトレイに乗せると、私は高藤さんの元へと急いだ。


「ゴメン。使い走りさせちゃって」


私が室内に入るやいなや、彼がすまなそうに眉尻を下げ、謝罪して来た。


「いえいえ。私もちょうど温かい飲み物が飲みたかったんです。外は寒いですからね~。体温めてから帰らないと。あ、お気になさらず、お仕事続けて下さい」


立ち上がってコーヒーを受け取ろうとした高藤さんを慌てて制し、デスクの端にそっと紙コップを置いた。


「ありがとう」


彼はさっそくコーヒーに手を伸ばすと、二、三口飲んでから再び作業に戻った。


私は高藤さんから見て、右斜め向かいに位置する自分のデスクに戻り、ずっと着こんだままだったコートを脱いで椅子の背もたれにかけてから腰を下ろした。
< 12 / 21 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop