【短編】聖なる夜の秘恋
だけど、私ははたと思いだした。
唇を離してぽつりと呟く。
「あっ、先生……? あのね、ガトーショコラ作ってきたんだけど、落としてダメになっちゃったかも……」
私は声を落としてそう言い、箱の元まで歩いていき、先生と中を確認して苦笑いをした。
ハート型に焼いたガトーショコラはぐちゃぐちゃで、中のチョコが溶け出している。
「俺もケーキ屋に予約しておいたのにあんなことがあって、全部吹っ飛んじまったよ」
頭をかきながら言う彼の一言に、また幸せの笑いが漏れる。
だけど、今度は彼がにっこりと微笑んで、私を見つめるんだ。
「でも、最高のデザートなら目の前にもうあるんだよな」
その瞬間、体が一気に浮き上がった。
「きゃあっ」
思わず声をあげる私。
間近にある得意気な顔の彼。