【短編】聖なる夜の秘恋


だけど、私ははたと思いだした。

唇を離してぽつりと呟く。

「あっ、先生……? あのね、ガトーショコラ作ってきたんだけど、落としてダメになっちゃったかも……」

私は声を落としてそう言い、箱の元まで歩いていき、先生と中を確認して苦笑いをした。

ハート型に焼いたガトーショコラはぐちゃぐちゃで、中のチョコが溶け出している。

「俺もケーキ屋に予約しておいたのにあんなことがあって、全部吹っ飛んじまったよ」

頭をかきながら言う彼の一言に、また幸せの笑いが漏れる。

だけど、今度は彼がにっこりと微笑んで、私を見つめるんだ。

「でも、最高のデザートなら目の前にもうあるんだよな」

その瞬間、体が一気に浮き上がった。

「きゃあっ」

思わず声をあげる私。

間近にある得意気な顔の彼。


< 14 / 18 >

この作品をシェア

pagetop