蜜恋ア・ラ・モード

「彼女に……」

「え?」

「彼女に、作ってあげたいと思いまして」


彼女……。やっぱりね。

さっきまで高鳴っていた鼓動が、急激に冷めてゆく。

そうだよね。こんなに素敵な男性に、彼女がいないはずがない。なのにちょっと落ち込むなんて。私は一体、どんな言葉を望んでいたと言うのだろう。

四人にバレないように苦笑を漏らすと小さく息を吐き、顔をいつもの笑顔に変えて前を見据えた。


「有沢さんの理由も、やっぱり羨ましいですね。じゃあ彼女さんが喜んでくれるよう、頑張って料理しましょう」


至って普通に、最初と変わらないテンションで話しかけたつもりなのに、何故か有沢さんは困ったような顔をしてみせた。

何? 私、何かマズイことでも言った? 

思い当たらず首をひねると、有沢さんは一瞬ハッとした顔をする。でもすぐにそれを笑顔に変えると、何もなかったように話しだした。


「そうですね。料理経験は殆ど無いんですが、頑張りたいと思います」


そう言って、握りこぶしを身体の前でグッと握って見せた。その姿を見て、楽しそうに笑う高浜さんたち。

でも私は何故か、一緒に笑えなかった。皆に笑顔を振りまいている彼の姿が、無理しているように感じてしまったから。

何故そう感じたのか。自分でも全く検討がつかないけれど……。

心がそう感じてしまって、モヤモヤしたものを残してしまった。



四人に資料とクリヤーブックを渡すと、今日の献立と手順の説明をする。

今日覚えてもらいたいのは、包丁の使い方と料理の基本の野菜の切り方。それが一番覚え易いのはなにかと考えた結果……。“筑前煮”だと思いそれをメインに、あとはネギと豆腐の味噌汁とキノコの炊き込みご飯にした。





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