蜜恋ア・ラ・モード
「さて、食べるか」
父の覚悟を決めた声に、私も手を合わせる。
二人同時の『いただきます!!』と重なって、玄関のチャイムが鳴った。
「やっと来た」
母が私を横目に見ながらいそいそと玄関に向かうと、「おはようございます」と聞き慣れた声が耳に届いた。
はぁ……。お母さんは一体、何を考えているんだろう。
ドタドタと廊下を歩く音が近づいてくると、ダイニングのドアから顔を出したのは。
「洸太……。なんであんたが、朝っぱらからうちに来るわけ?」
「都子!! 洸太くんに、なんて口の聞き方してるの。ちゃんと謝りなさい」
「いいですよ、おばさん。都子の口の悪さは、子供の頃からだから。それも俺だけに。なっ、都子」
何が、『なっ、都子』だよ。まるでそこに、何かが含まれているみたいないい方しちゃってくれちゃって。
今私の目の前で父と朝の挨拶を交わし、母からご飯を受け取っている男性。
洲崎洸太(すざきこうた)、二十八歳。
保育園年少さんのリス組から、小学校・中学校・高校・大学と、ずっと一緒の幼なじみ。
小学生の頃までは私より小さくて女の子みたいに可愛かった洸太は、いつも男の子にイジメられていて。洸太を守るのが私の役目だったのに。
中学生になるとぐんぐんタケノコのように大きくなっていって、あっという間に身長は抜かされてしまい、高校生になると“学校一のイケメン”と言われるような男になってしまった。
それでも私には、保育園の頃の“洸太”に変わりなくて。
ついつい上から目線、お姉ちゃん口調になってしまう。