蜜恋ア・ラ・モード
「洸太が来るから、お母さんこんなにたくさん作ったんでしょ。洸太の胃袋は、底なしだもんね」
「都子、お前なぁ~。人のことをバケモン扱いすんなよ」
「大して変わんないでしょ」
子供の頃は泣いてばかり、私の後を追っては『都子ちゃん』と呼んでいた洸太も、今では『都子』『お前』なんて呼ぶから頭にくる。
でも身長差が三十センチ以上ある今となっては、貫禄がなくて文句のひとつも言いづらい。
「そんなに食べるから、化け物みたいに大きくなっちゃうのよ。で今日は、何しに来たの?」
「何しにって、お前。今日は引っ越しなんだろ? だから手伝いに来てやったんじゃないか」
母のことをジロッと睨めば、慌てて目を逸らされてしまった。
それどころか、何が面白いのか後ろを向いて肩を震わせて笑っている。
お母さんったら、また余計なことして───
母は洸太のことをえらく気に入っているらしく、何かにつけては私と洸太をくっつけたがる。
母曰く、『洸太くんがこの歳になっても恋人を作らず結婚もしないのは、都子のことが好きだからよ』ということだけれど。
何度も『都子は洸太くんのこと、どう思ってるの?』と母に聞かれるが、今のところその件に関しては“ノーコメント”を貫いている。
「引っ越しって言ったって家具も新居の方で新しいのを揃えたし、大した荷物はないんだけどね」
「それでも一応女のお前より、俺のほうが力もあるし役に立つぞ」
「一言多いんだよ、洸太は……」
でもちょっと心細かった気持ちが、洸太のお陰で消えていることに気づく。
なんやかんや言っても、私は洸太を頼っているのだろう。
私よりも大きくなって、泣き虫じゃなくなった洸太のことを……。
そしてそんな相変わらずのやりとりをしている私と洸太を見て、母が微笑ましく見ているのは言うまでもない。